「・・・・分からない・・」

黙っていた事なのか、それとも行為に対してなのか。

「逃げ出さないでちゃんと話せばよかった・・・・」






authentic







でも、今戻って弁解したところでやったことには変わらない。
それよりもあの優しい彼を怒らせてしまった自分の愚計さに路上で立ち止まり目を瞑り空を仰いだ。




「・・・・はぁ」

「溜息をつくのは俺の方だろ」

「?!―」

「そんな所で突っ立って何してるんだ」

「バル、、、、フレア」

何時の間にか砂海亭の前にいた自分。

「・・・私」

「遅いから探しに行くところだった」

「ごめん。道に迷っちゃった」

「ったく」

「・・・バルフレア」

「ん?」

「本当にいいの?」

「約束したろ」

「だって、最後に―」

の手を取るバルフレア。
自分が持っていたものをの掌にそっとのせる。

「お前の物だ」

「・・・・ありがとう」

「何してんだ、早く行けよ」

「・・・う、ん」

「どうした?」

「受け取って、くれるかなって」

「当たり前だろ、何今更心配して―・・・」

零れ落ちそうなほど涙を溜めた瞳と重なる。

、お前・・」

顔に近寄るバルフレアの指先。我に返ると気付いた視界の揺らぎ。

「?!―そ、の、、う、嬉しくてそれで・・っごめん。もう行くね」

!」

走り去る後ろ姿に舌打をするバルフレア。

「あれが嬉し涙に見えるかよ・・・」

店に戻ろうとしたがバルフレアは身を翻しを追いかけてゆく。

しかし、夜の人ごみに阻まれの姿は見えず、
辺りを見回すと代わりに見つけてしまった人物の姿―





「・・・あいつ・・」


と、眉を顰めて呟くバルフレア。


「丁度よかった、探してたんだあんたの事も。ついでだけどな」

「・・・・・・・」

「黙ってるって事は知ってるんだろ、バッシュ」

「・・・・さあな」

「いつもと変わらず冷静な態度でいらっしゃる」

半ば呆れたように肩をすくめ、鼻で笑ったバルフレア。

「・・・何が可笑しい」

「さあな」

「ふざけているのか」

「―・・それはアンタだろ」

舌打してバッシュに近づきならが、まくし立てる様に喋るバルフレア。

「他人の恋愛に口出しなんてしたくないさ。それでもを他の男の前で泣かせる様な事すんなよ」

「・・・・、、が・・・?」

―泣いた?

「討伐に行って怪我をしても絶対泣かなかった。確かにあいつは危険な事をしたと思うが泣かせるほどの事か?」

「討、伐。。一体・・・」

どうして―

「それもこれもアンタの為だって言い張って煩いんだよ。俺の言う事なんて聞きやしない」

話し終えたバルフレアは溜息をついて一度口を閉じた。
黙ったまま呆然としているバッシュを見て吐き捨てるように言う。

「あんたら2人の惚気に付き合わされた俺の身になってみろ」

「な・・・・っ・」

「そういう事に人を巻き込むなよ。―ったく。じゃあな、後はご自由に」

言いたい事を言ってスタスタとその場を後にするバルフレア。
取り残されたバッシュはただ目を丸くし驚愕の事実に言葉を失っていた――――










ああ、駄目だ・・・・・



どうやっても涙がこぼれ落ちる。

瞑っても上を向いても枕に伏しても。
いつもの強気な自分はこんな時に限っていなくなる。

きっと私が討伐に行った事を怒っている筈なんじゃないかと思う。
でも結局憶測で、怒られた理由すら曖昧だから漠然と自分の非を認めるしかなくて。

忙しいバルフレアまでつき合せて身勝手もいいところだ、そう思う。

それでも、、、、ただ――――




考えてじわりと溢れ出した涙が突然の音に驚きポタリと落ちた。


「――!!」

顔を上げると廊下の明りがを照らしだす。

強引に開かれた扉―
相手の返事を聞かず部屋に入ってくる事など絶対になかったのに。

無言のままのバッシュに耐えかねて目線を逸らした
近づいてくる足音から逃れようとはベットの上を後ずさり反対側に降りようとする。

「!?―ッ」


細い腕を掴み引き寄せ凭れ掛かるように体重をかけて抱きしめる。

下になったから小さく苦しそうな声が漏れたが関係ない。
痛くたって逃げようとする彼女をを止められればそれでよかった。

布擦れの音が時間とともに小さくなり部屋が静かになってゆく。
抵抗を止めは腕をパタリとなげだした。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


触れた彼女の頬が濡れていた。

「バルフレアから聞いた・・・・・」

「・・・・・・」

「討伐に行ったのは本当なのか・・・・?」

間を置いて小さく頷いた

「どうしてそんな事をしたんだ」

「・・・・・・」

涙を拭おうとの手が動く。
泣かせたのは自分なのに謝りもしないで―

「どうして俺を責めない」

「ごめんなさ、い・・・私が」

「っ違う、、、俺が勝手に君を・・」

「。。。。。。」

「疑ったんだ」

「。。。バッ」

「君が他の人を、、好きになったんだと」

「どう、して・・・」

「避けていただろう俺の事を。それに次の日君はバルフレアと出掛けた・・・。
 それから数日間離れてしまったから、すぐに君に逢いに行こうとしたが。。。」



一度息をついて意を結したようにバッシュは話す。


「パンネロとの会話を。。。聞いた」

「え。。。。。。」

「だから、君が、、、バルフレアを」

「待っ、て・・・何で」

体を起こして呆然としているを見下ろすバッシュ。その顔は赤くて―

「誤解したんだ。。だからありもしない事に傷ついて君を怒鳴りつけた」

「・・・・・・」

「勝手に妬んで、泣かせてしまった」

そっとの頬に触れる大きな手。

「自分の行動に後悔した・・・・・」

「バッシュ。。私、そんな誤解させるような事してしまった?」

「君が何をしているのか俺は知らないから、、誤解としか言いようが・・・」

「だって知ってるって」

「それは誤解の方だ。お互い真意を濁していたから」

だから感情的な会話が成り立ってしまったんだ。



「―・・教えてくれないか?」

口元を小さく上げて尋ねるバッシュ。
一度目線を逸らしたは今度はおどおどとバッシュの顔を見つめ
手に持っていたものを目の前に差し出す。


「リ、ボン・・・?」

「その、今日は、何の日か知ってる??」

「・・・・いや」

「えっ・・・」

「思い当たる節がない」

「もしかして私に気を使ってくれてるの?」

「いや、本当に何も」

「―だって今日はあなたの誕生日でしょう?」

は微笑みバッシュの腕にそっと触れる

「だからこの日に誓おうと思って」

リボンをバッシュの首にかけるとは蝶々結びをする

「これを手に入れたくて戦ったの。少しだけバルフレアに助けてもらっちゃったけど無理はしてない。
 危なくなったら逃げだしたわ。だから時間がかかっちゃったんだけど・・・・」

「・・・・・・・・」

「これからは無理はしない。心配、かけたくないから。。。。
 だからバッシュ、今日から私の事もう少しだけ信じてくれる?」

心を覗き込むようにが瞳の奥を見つめていた

「ああ、信じるよ。。。。だが一つだけ」

「なに?」

「嫉妬する事だけは許してくれないか?」

「え・・・」

「好きだからどうしようもないんだ」

「それなら、いくらでもして」

「きっと君は呆れるな。俺の心の狭さに」

「愛の深さに、でしょ?」

「そうだな。そっちの方が―」

「?」

「今までより素直に君を独占できる・・・・」

そう言って下りて来た唇。

ただ思うのはこれ以上どこにも貴方が入る隙間がないということ。

もう全てが貴方で満たされているというのに。きっとこれは独占ではなく支配―――